AGA進行度で見極める「手遅れ」の境界線

AGA(男性型脱毛症)における「手遅れ」という言葉は、非常に重く感じられますが、医学的に明確な境界線が引かれているわけではありません。しかし、治療効果の観点から、ある程度の目安となる状態は存在します。一般的に、AGAの進行度を評価する際には、ハミルトン・ノーウッド分類という国際的な基準が用いられます。これは、薄毛のパターンと進行度合いをⅠ型からⅦ型までの7段階で評価するものです。この分類で、最も進行した状態であるⅦ型(側頭部と後頭部にわずかな毛髪が残るのみで、頭頂部から前頭部にかけて広範囲に脱毛している状態)に近ければ近いほど、薬剤による治療での大幅な改善は難しくなると言えます。特に重要なのは、毛髪を作り出す「毛包」の状態です。AGAが長期間進行すると、毛包は徐々に縮小し、最終的には活動を停止して線維化(硬化)してしまいます。この線維化が広範囲に及んでいると、フィナステリドやミノキシジルといった薬剤を投与しても、毛包が再び毛髪を作り出すことは期待できません。マイクロスコープなどで頭皮を観察した際に、毛穴自体が見当たらなかったり、産毛すら全く生えていない状態が広範囲に続いている場合は、薬剤治療の適応が難しく、「手遅れ」に近い状態と判断される可能性があります。しかし、たとえ広範囲に薄毛が進行していても、まだ細い産毛が残っていたり、毛穴が確認できる部分があったりすれば、治療によってこれらの毛が太く成長したり、休止期にある毛根が活動を再開したりする可能性は残されています。つまり、「手遅れ」の境界線は、単に見た目の薄さだけでなく、毛包の活動性がどれだけ残っているかによって左右されるのです。そのため、自己判断で諦めてしまうのではなく、まずは専門医による正確な頭皮診断を受けることが非常に重要です。医師は、あなたの毛包の状態を詳細に評価し、治療の可能性や現実的な目標について、適切なアドバイスをしてくれるでしょう。