男性型脱毛症、通称AGAの治療薬として世界中で最も広く知られているのがプロペシアです。多くの男性がこの小さな錠剤に希望を託していますが、具体的に体の中でどのような働きをして薄毛を食い止めているのか、そのメカニズムを正確に理解している人は意外と少ないかもしれません。プロペシアの効果を端的に言えば、抜け毛の原因物質を生成させないという防御壁の役割です。AGAは、男性ホルモンの一種であるテストステロンが、頭皮に存在する還元酵素5アルファリダクターゼII型と結びつくことで、ジヒドロテストステロン(DHT)という強力な脱毛ホルモンに変換されることから始まります。このDHTが毛根の細胞に「成長を止めろ」というシグナルを送り、通常なら二年から六年続くはずの髪の成長期を極端に短くしてしまうのです。プロペシアの有効成分であるフィナステリドは、この諸悪の根源とも言える5アルファリダクターゼII型の働きを選択的に阻害します。酵素の働きがブロックされれば、テストステロンがあってもDHTへの変換が行われず、結果として毛根への攻撃命令が出されなくなります。これにより、短縮されていたヘアサイクルが正常な長さに戻り、髪の毛が太く長く育つ時間が確保されるようになるのです。つまり、プロペシアは直接的に髪を生やす肥料のような薬ではなく、髪が枯れる原因を取り除く除草剤、あるいは髪を守る盾のような存在と言えるでしょう。このメカニズムゆえに、プロペシアは「守りの薬」とも呼ばれます。治療を開始してすぐに効果が現れることを期待する方も多いですが、メカニズム上、即効性は期待できません。なぜなら、プロペシアがDHTの生成を抑えたとしても、すでに休止期に入ってしまった毛根が再び活動を始め、目に見える長さの髪として地肌を覆うまでには物理的な時間が必要だからです。また、すでに攻撃を受けて弱ってしまった毛包が回復するには、数回のヘアサイクルの回転を待たなければならないこともあります。したがって、服用を始めてから最初の数ヶ月は、水面下ではホルモンバランスの正常化が進んでいても、鏡を見たときの見た目には変化がないという状態が続きます。ここで諦めずに、薬が体内で戦ってくれていると信じて継続できるかが、治療成功の大きな分かれ道となります。プロペシアの効果は、臨床データにおいても非常に高い再現性が確認されています。