現代の薄毛治療は、フィナステリドやミノキシジルといった西洋医学の薬剤が主流ですが、東洋医学である漢方もまた、独自の理論に基づいた有効な選択肢として存在感を増しています。漢方専門医によると、漢方治療の最大の強みは、薄毛を局所的な問題としてではなく、身体全体の不調和のサインとして捉える点にあります。例えば、AGA(男性型脱毛症)の患者さんであっても、単に男性ホルモンの影響と見るだけでなく、その背景にある「腎虚」や「瘀血」といった漢方的な体質を評価します。これにより、西洋薬の治療と並行して漢方薬を服用することで、頭皮の血流改善や全身の滋養強壮を図り、相乗効果を期待できるケースは少なくありません。また、女性のびまん性脱毛症や円形脱毛症においては、漢方の役割はさらに大きくなります。これらの症状は、ストレス、疲労、栄養不足、ホルモンバランスの乱れといった複合的な要因が絡み合っていることが多く、西洋医学的なアプローチだけでは対応が難しい場合があります。漢方では、丁寧な問診を通じて患者一人ひとりの「証(しょう)」、つまり体質や病気の今の状態を見極めます。そして、不足している「気」や「血」を補い、滞っている流れをスムーズにし、過剰なものを排出することで、体全体のバランスを正常な方向へと導きます。このプロセスを通じて、結果的に髪が育ちやすい体内環境が整っていくのです。もちろん、漢方は即効性を期待するものではなく、数ヶ月単位での継続的な服用が必要です。しかし、その過程で冷え性や月経不順、倦怠感といった、薄毛以外の不調も同時に改善されることが多く、生活の質(QOL)そのものを向上させる可能性を秘めている点が、大きな魅力と言えるでしょう。